東北の空を鋭く切り裂く高圧電線。日常という名の奇跡を維持するために、命懸けで電柱を登る男たちがいる。株式会社アペック。彼らの主戦場は、東北電力ネットワークから請け負う6600ボルト以下の配電設備工事だ。一歩間違えれば死に直結する極限の現場で、彼らは新設と改修を繰り返している。
このプロフェッショナル集団を率いるのが、代表取締役の髙橋知道である。彼の言葉には、過酷な現場を知る者特有のリアリズムと、旧態依然とした業界の構造を内側から変革しようとする、静かな、しかし圧倒的な熱量が宿っている。

アペックという会社は、最初から一つの強固な組織として誕生したわけではない。元々はそれぞれ独立していた複数の協力会社が、地殻変動に晒されたことから物語は始まる。地域に強力な競合他社が出現したのだ。個別のままでは、資本力と規模の前に淘汰される。
「このままだとスケールメリットなんかも含めて、どんどん仕事なくなるよ」
髙橋は当時の生々しい危機感をそう振り返る。生き残るためには、散らばっていた個を一つに束ねるしかなかった。互いの利害を越え、まずは組合を結成し、やがて株式会社アペックという一つの生命体へと結晶化させた。
だが、形を一つにしても、人間の意識は簡単には変わらない。会社となった組織で、髙橋が最初に対峙したのは従業員たちの「意識の壁」だった。年に1、2回、全員と必ず行う個人面談。そこで浮き彫りになったのは、致命的なアンマッチだった。従業員は「やっているつもり」でいるが、会社としての結果や売上には全く繋がっていない。中には「言われた通りやるだけ」と冷ややかに言い放つ社員もいた。

髙橋は逃げなかった。妥協のない対話を執拗に繰り返した。会社が求める水準を明確に提示し、プロセスが正しく結果に結びついているかを問い続けた。その摩擦の積み重ねが、やがて奇跡的な変化を生む。
「今は『どうすれば仕事につながるのか』『どうすれば売上を増やせるのか』というのを自分たちで考えるようになった」と髙橋は語る。従業員たちは自立したビジネスパーソンへと変貌を遂げたのだ。面談の場では、かつての受動的な態度は消え去り、「次は所長を目指したい。私は何をすればいいですか?」という、自らのキャリアを貪欲に要求する生々しい言葉が飛び交うようになった。
現在、アペックの売上の99%は配電工事が占めている。それは一見、安定した城郭のように見える。だが、髙橋はその安定を、もっとも危険な「リスク」だと断じる。東北電力の予算や方針に自らの運命を委ね続けることは、経営の自殺行為に等しい。「収入源をもっと増やしたい」—。髙橋は即座に次の一手を打った。M&Aを実行し、民間土木事業へと進出。さらに業種や建設業の枠すら超えた、次なる拡大への布石を打ち続けている。

安定を拒絶し、変化を求め続ける髙橋の哲学は、従業員へのまなざしにも一貫している。彼が求めているのは、従順な歯車ではなく、自らの人生を自らで支配しようとする野心だ。
「自分たちでどういうキャリアをつくりたいか、どういう人生を送りたいかというのを、自分から発信してほしい」
どんな仕事にも、退屈で、困難で、逃げ出したくなる瞬間はある。それをシステムのせいにするのは容易だ。だが、高橋はそれを個人の牙で面白く変えてみせろ、と挑発する。
「言われたことをやるとか、『こうじゃなきゃダメだ』っていうものなんて、そんなにあるわけではないと思っていて。それをいかに壊していくか、だと思うし、そういう形を自分たちで作っていくという気持ちを持ってほしい」

安定の先には、何もない。あるのは緩やかな停滞と、牙を抜かれた人間の群れだけだ。既成概念を破壊し、自らの手で混沌を切り拓く。髙橋知道が率いるアペックの血の通った反逆は、まだ始まったばかりである。




