坂本紫穗は、和菓子作家として独自の道を歩んでいる。彼女の作品は、伝統的な和菓子の枠を超え、現代の感性と美意識を融合させた新たな表現を追求している。
宇都宮市出身の坂本は、大学卒業後、都内のIT企業でキャリアをスタートさせた。当時のIT業界は急成長を遂げており、彼女もその波に乗って充実した日々を送っていた。しかし、20代後半になると、「仕事」という枠を越えて、自分が本当に夢中になれるものを求めるようになった。
「仕事は仕事、趣味は趣味と上手に分けられる性格だったら良かったのですが。私はとにかく夢中になれるような、極端に言うと、土日も昼も夜も関係なく取り組めるくらいのテーマが欲しくて。そのヒントを探しに休日をつかって色々な教室に通いました。」彼女はフランス料理の教室や写真学校、フードコーディネーターの資格取得など、多岐にわたる分野に挑戦した。しかし、どれも自分が探し求めているものとは少し違うと感じていた。
そんな中、28歳の誕生日を迎える数日前、彼女は和菓子の夢を見た。「優しい紫色の、桔梗のようなお花の和菓子が出てきて。目が覚めたときに ‘和菓子か、いいかもしれない’ と思わせてくれた夢でした。」その直感に従い、彼女はすぐに和菓子作りを始めた。和菓子の小さく控えめな佇まい、美しい色彩、馴染みのある素材、そして深い歴史に魅了された彼女は、独学で和菓子作りに没頭した。
3〜4年の試行錯誤を経て、彼女は独自の配合を作り上げた。その間、和菓子に取り組む時間を確保するために会社員を辞め、フリーランスとして活動を始めた。「収入が下がっても、’今まさに、自分の人生を生きている’ と思っていました。心にモヤモヤを抱えた状態で会社員をするよりは、小さくても、新しいチャレンジをしようとする自分の方が居心地がよかったのです。」彼女は自分の選択に確信を持ち、和菓子作家としての道を歩み始めた。
彼女の代表作『ひとしずく』は、和菓子作家としての自信を深めるきっかけとなった。「雨の雫は小さく、目にもとまりません。そもそも雨は少し憂鬱なことが多いです。その雨の一雫を ‘私たち生き物を育む恵’と解釈し、感謝と敬意を込めてお菓子として表現しました。」この作品を通じて、彼女は自分の創造性と和菓子作家としてのアイデンティティを確立した。
和菓子作家としての活動が軌道に乗り始めた頃、彼女は実家で母親に「こんなに和菓子に夢中になるのだったら、大学進学や就職もしないで最初から和菓子をやればよかったのかな?」と漏らしたことがある。すると母親は、「それは違うと思うわよ。あなたの和菓子は、あなたの色んな経験を通して生まれてきたからこそ、見た人が ‘素敵だね’ と思ってくれているのだろうと、お母さんは思うな。」と返してくれた。この言葉に、彼女は自分の選択が間違っていなかったことを再確認し、より一層和菓子作りに邁進する決意を固めた。
彼女は、和菓子作りを家庭でも楽しめるものにしたいと考えている。「クッキーやカップケーキを焼くなんてことはあっても、和菓子はあまりイメージがないですよね。白玉団子などでしょうか。そう思うと家庭の和菓子としてもう2〜3個くらい定番のレパートリーがあってもいいのでは?と思いました。」彼女は子ども向けの和菓子教室を開催し、家庭で簡単に作れる和菓子のレシピや作り方を工夫している。「多くの和菓子は水や米、豆、砂糖といったシンプルな素材からできています。また油分を使うことは少ないので、後片付けも意外と楽なんですよね。材料をしっかり計って手順を守れば美味しいものがつくれるので、実際にやってみると皆さんが思っているより簡単かもしれません。」彼女の道のりは、まだ始まったばかりだ。

-
役職
紫をん
-
氏名
坂本 紫穗
-
会社名
和菓子作家
直感を信じて進め
SHARE