• 役職

    代表取締役

  • 氏名

    坪井 奈美恵

  • 会社名

    株式会社峰商店

  • URL

    https://mine-s.jp/

鉄の腕は一人では動かない

鉄の腕は、自分の力だけでは動かない。重さを読み、合図を送り、足場を固める仲間がいて、はじめて巨大な鉄骨は空へ持ち上がる。株式会社峰商店の代表取締役・坪井奈美恵の経営も、それによく似ている。経営者として何を大切にしているのか。そう問われた坪井は「感謝ですかね」と短く答え、「皆さんに助けられてやっているので、それが一番ですかね」と続けた。

峰商店は、クレーンのリースを主軸に、鉄板のリースや工場内でのトラック運搬作業までを手がける会社である。従業員について語るとき、坪井の言葉には熱がこもる。朝がどれだけ早くても、前の晩に出て翌朝に着くような遠方の現場でも、彼らは文句一つ言わずに向かっていく。「本当に、本当に本当に働いていただいているので」と坪井は繰り返す。

坪井がこの会社を背負うことになったのは、先代の死がきっかけだった。先代はがんを患い、最期は自宅で看取った。経営者を失った会社は、大きく揺らぐのが常だ。だが峰商店では、「会社、誰がやる?」という声すら上がらなかったという。そして、誰一人辞めなかった。「皆さんの生活を守っていかなきゃいけないっていうところで。私しかいなくてですね」と坪井は振り返る。準備の整った船出ではなかった。それでも船には、全員が乗っていた。

先代は厳格な経営者だった。その気風を受け継ぎながらも、会社の空気は変わった。ベテランのオペレーターは「世代が近いっていうのもあって、まず話しやすい環境になった」と語る。菓子業界で20年事務員を務めたのち入社した事務スタッフも、厳格だった会社が「和気あいあいと家族っていう感じの会社に変わっていった」と話す。当の坪井には、社長業をしている自覚があまりないのだという。「一応名前はそうですけど、本当に従業員さんたちに押してもらっているみたいな感じですかね」—先頭で旗を振るのではなく、皆に背中を押されて前へ進む。それが坪井のリーダーの形だ。

現場には、現場の誇りがある。三十数年クレーンを操ってきたベテランは、新しくできた橋のような「地図に残る仕事」が自分の誇りだと語る。峰商店の看板を背負う者として、「ここにはこんなオペレーターがいるんだな」と言われるよう、下手な運転は決してしない。後進には基礎から、事故がないようきっちりと教え込む。作業前には全員で集まり、どこに危険が潜むかを話し合ってから仕事に入る。まだ小型のクレーンに乗る若手は、いつか大きなクレーンに乗りたいと話す。理由を問えば、答えは一言だった。「やっぱりかっこいいので」。

坪井が描く未来は、驚くほど素朴だ。従業員が怪我なく事故なく健康で、「みんな笑って毎日仕事できればいい」。そのうえで人を増やし、クレーンを増やし、一つずつ積み重ねながら成長していく。大型のクレーンがあるからこそ、それに乗りたいと応募してくる若者もいる。若い頃に心の底からやりたいと思ったことは、いくつになっても消えない。だから「諦めずに」と、峰商店の人々は次の世代へ言葉を贈る。

「何もできない」と坪井は言う。だが、誰一人辞めなかったという事実が、その言葉を静かに否定している。助けられ、押され、自分にできることで恩返しを続ける。感謝が回り続ける限り、峰商店のクレーンは明日もどこかの空へ、鉄の腕を伸ばすだろう。

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