ブックオフグループホールディングス株式会社の堀内康隆氏、その存在は一見控えめながらも、その歩みはまるで小説の主人公のような軌跡を描いている。1976年、東京で生まれた彼は、幼少期から常に目の前に広がる挑戦に真正面から立ち向かう姿勢を身につけてきた。堀内氏がその価値観の土台を築いたのは、慶應義塾普通部への進学を目指した小学生時代だった。勉強に没頭し、遊ぶ時間を犠牲にして目標に向かった彼は、中学進学後、同世代の中で際立った多様性を持つ仲間たちに出会った。その中で得た“一期一会”という言葉は、彼の人生を通じた座標軸となり、人との出会いと時間の貴重さを教えたのである。
社会人としてのキャリアを語る上で欠かせないのは、ニューヨークでの経験だ。入社したコンサルティング会社での交換プログラムにより、彼は1年目からアメリカに飛び立った。しかし、そこでの生活は、想像以上に厳しいものだった。アパート探し、給与の未振込といった基本的な生活の問題から、プロジェクトへの配属が厳しく管理される環境まで、彼は自らの力で道を切り開かなければならなかった。このとき培った“与えられた仕事に全力を尽くす”という哲学は、その後の堀内氏のキャリアの核心に位置づけられるものとなった。
彼がブックオフに入社したのは2006年。それは、コンサルタント時代にブックオフのプロジェクトに関わり、その時のリーダーから直接誘われたことがきっかけだった。堀内氏は、店舗運営から始まり、取締役執行役員、ブックオフオンライン株式会社や株式会社ブクログの代表取締役社長を経て、2017年にブックオフコーポレーション株式会社の代表取締役社長、そして2018年にはブックオフグループホールディングス株式会社の代表取締役社長に就任した。
堀内氏が代表に就任したとき、ブックオフは厳しい状況にあった。ネット販売やフリマアプリが台頭する中、リユース市場での競争は激化し、会社は連続赤字に直面していた。しかし、彼はまず全国150店舗を巡り、現場の声を聞くことから始めた。その問いかけは、「あなたの店の自慢を教えてください」というシンプルなものだったが、現場のスタッフに自信と誇りを持たせるための重要な第一歩だった。彼は「個店を磨く」という方針のもと、各店舗に裁量を与え、地域に根ざした店舗づくりを進めた。一方で、本部ではデジタルシフトを進め、スマホアプリの導入やネット注文商品の店舗受け取りといった新サービスを展開し、店舗運営を支援した。
堀内氏のリーダーシップの下、ブックオフは変革を遂げた。単なる本やソフトのリユースから、フィギュアやプラモデル、ブランドバッグまで、取扱商品を多様化し、「本だけじゃないブックオフ」という新たなブランドイメージを築いた。また、国内事業の基盤を活かしながら、プレミアムサービス事業や海外事業といった新たな成長軌道を描くことにも成功した。
彼の信念の中核にあるのは、「多くの人に楽しく豊かな生活を提供する」というミッションだ。そのために、リユースをより身近でポジティブなものにするための活動にも力を注いでいる。例えば、小学校でのリユース教育「学校BOOKOFF」や地域企業と連携したリユースフェスの開催、服飾専門学校生を対象にした「Reclothes Cup」など、リユースの意義を新しい形で伝える取り組みを積極的に進めている。
堀内氏が目指すのは、「ブックオフだけじゃないブックオフグループ」への進化だ。彼の座右の銘である「独立自尊」の精神を体現し、自らを磨き、多様性を認めながら、社会に価値を提供し続けるその姿は、まさに現代のリーダー像そのものだ。趣味であるジョギングやサックスの演奏、好きな食べ物であるグラタンといった彼の個人的な一面もまた、人間味を感じさせるエピソードであり、彼を取り巻くストーリーに温かみを与えている。
堀内康隆、その挑戦の旅路はまだ終わらない。リユース業界の未来を切り拓くその歩みは、これからも多くの人々にインスピレーションを与え続ける。