その痒みは突然やってくる。アトピー性皮膚炎という病名は、どこか軽く聞こえるかもしれないが、その実態は戦争に近い。季節の移ろいとともに起こる、自分自身との戦争だ。その肌を乾燥は引き裂き、湿気は刺すように責め立てる。夜の静寂を破るほどの刺激に耐える日々…それは本人以外には決して分からない、孤独な闘いである。
豊田雅彦医師は、千葉県松戸市のうるおい皮ふ科クリニックの院長として、日々診療に励んでいる。皮膚科・アレルギー科・美容皮膚科・漢方皮膚科と幅広い診療を提供しており、西洋医学のみならず東洋医学の漢方薬も巧みに取り入れ、患者一人ひとりに最も適した治療を展開。アトピー性皮膚炎をはじめとする難治性皮膚疾患に苦しむ患者にとって、文字通り「最後の砦」となっている。
富山医科薬科大学(現在の富山大学医学部)を卒業後、皮膚科医としてその道を歩み始めた豊田は、1994年に招聘された米国ボストン大学医学部皮膚科学教室で、皮膚病理学と電子顕微鏡を用いた当時最先端の研究に取り組んでいた。日夜研究に没頭した彼が発見した革新的な事実は、1996年の国際皮膚科学会で最優秀発表賞を獲得した。
帰国後、豊田は愕然とした。「日本の皮膚科において痒みについての研究や治療がまったくもって遅れていました。そのことに気づいた時点で、痒みの研究と治療を徹底的に行うという決意が自然と固まりました」。開業後のうるおい皮ふ科クリニックには患者が殺到。連日深夜まで診療が続いた。それでも夜を徹して患者の悩みに向き合い続けたという。
忘れられない苦い経験があった。彼の手にかかっても、どうしても治らない1%の患者たちがいた。その悔しさと無力感が彼を突き動かし、さらなる研究と治療法の模索に駆り立てた。
現在、豊田医師が提供している「トヨダ式標準療法」は、まず患者の生活環境を整え、炎症を鎮める薬物療法を行いつつ、徹底したスキンケアを実施する。そして状況に応じて、彼自身が開発したスキンケア製品「ベリラボ」を併用する。これにより、かつては治らないと諦められていた重症のアトピー患者でも改善へと導いている実績がある。
そんな彼の診療における最大のこだわりは、患者に対して「わかるまで説明する」ことだ。医師としての権威を振りかざすことなく、目の前の患者が理解し納得できるまで、丁寧に話す。診察時間は長くなるが、彼の信念がブレることはない。「医療とは人と人とのコミュニケーションであり、患者が納得して初めて治療は完結する」という強い信念に裏打ちされているのだ。
「昨今では、いわゆる研究のための研究をおこなってしまう方も散見されます。やはり、医療に携わる人間として、患者を救うための研究をおこない、そして患者さんにきちんとその成果を還元するのが筋だと思うんです。医師には、諦めずに探求し続けるという使命がありますが、その背景には患者さんの症状を救うという至極当然な理由がある。それだけは忘れてはいけませんよね。」
肌の痛みは心の痛みでもある。肌荒れを隠すように、心を閉ざしてしまうことだってあるかもしれない。そんな患者たちの、この世に一つとない悩みの数々に、これからも豊田医師は真摯に立ち向かい続ける。