勇者だけでは世界は救えない

男は、二足の草鞋を履いている。一つは、病に苦しむ人々の「日常」を取り戻すための草鞋。もう一つは、人々に熱狂という「非日常」を提供するための草鞋だ。合同会社Ritter Ordenの代表社員であり、「ちとせ循環器内科」の院長も務める千年忠祐は、医療とスポーツという二つの領域を縦横無尽に駆け抜けている。

ちとせ循環器内科は、風邪や腹痛といった一般内科から、循環器領域に特化した専門治療までを担う町の診療所である。高血圧や糖尿病などによる動脈硬化の是正、心臓疾患の管理コントロール、そして心臓リハビリテーションという3つの柱を軸に、人々の命と日々向き合っている。千年は、クリニックを訪れる患者について「悩み事や病気を抱えていて、症状が取れてやっと日常に戻れる」と静かに語る。マイナスをゼロに戻すのが医療の役割だ。しかし、彼がフットサル場などのスポーツ施設に求めたのは、それとは全く異なる景色だった。「たくさんの出会いや笑顔、喜びや高揚感を味わえる非日常がそこにはある」と千年は語る。

日常の安心と、非日常の熱狂—彼はその両方を人々に提供したいと渇望したのだ。

彼の立ち上げた会社「Ritter Orden」は、ドイツ語で「騎士団」を意味する。施設ができる前、熊本城周辺の小学校の子供たちが集まってクラブチームとして活動していた時期があった。熊本城といえば騎士だろうという発想から、甲冑をあしらった無骨なエンブレムが生まれたのだという。 本業である医師の重責を担いながら、新たな事業を立ち上げるその姿は、周囲の目に異端の挑戦者として映った。

FCノルド熊本の監督であり従業員でもある片山奨典は、「医師という本業がある中で一大事業を立ち上げ、私に声をかけてくれた。すごいチャレンジャーだし、行動力に驚かされた」と千年の熱量について語る。自分にないものを持つ代表に惹かれ、片山は現在、子供たちへのサッカー指導を通じてこの組織の基盤をより盤石なものにする役割を担っている。

設立から数年が経ち、千年の視線はさらに先へと向かっている。今後は親子で参加できるイベントや、運動不足の40代以上が気軽に参加できる場、さらには身体障がい者のフットサル大会や高齢者の健康づくりの場を提供していきたいという。 人はなぜ、新たな一歩を踏み出すことを躊躇うのか。千年は「皆賢いので、リスクを計算してしまうからだ」と分析する。だからこそ、多くの友人や経営者、成功者の声に耳を傾け、自らの計画が誰かのためになる社会貢献だと信じ抜くことが必要なのだ。誰かのために動けば、必ず応援しサポートしてくれる人たちに出会える。「理念を掲げてリスクを恐れず、いろんなことを頑張っていただきたい」と、千年は次世代に向けて力強い言葉を口にする。

完璧な人間など存在しない。「僕の好きなドラクエだって、勇者だけでは何も解決できません」と千年はふっと笑う。得手不得手を補い合える仲間を集め、チームを作ることではじめて、実現したい未来への可能性は少しでも上がっていくのだ。孤独な勇者としてではなく、仲間と共に進む騎士団の長として、千年の挑戦はこれからも続いていく。

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