山海嘉之は、科学と社会の境界を突き破る革新者であり、未来を切り拓く探究者である。彼が築き上げたCYBERDYNE株式会社は、単なる企業ではなく、科学技術を通じて社会変革を目指すプラットフォームだ。
1958年、岡山県に生まれた山海は、幼少期から科学への強い興味を示していた。小学校3年生の頃、アイザック・アシモフの『われはロボット』を読んで、科学技術が人間と共生する未来を夢見たという。中学から高校にかけては理科の枠組みを超えて、生物、化学、物理といった科学全般にのめり込む。そして、筑波大学大学院へ進学し、工学博士の学位を取得。その後、筑波大学の教授として基礎研究を進める中で、サイバニクスという新しい学術領域を提唱した。
サイバニクスは、人、機械、情報の融合を目指す学問であり、山海の理念そのものだ。この理念は、2004年に設立されたCYBERDYNEで具体化された。彼が開発した装着型サイボーグ“HAL”は、脳から神経、筋肉に伝わる微弱な信号を読み取ることで、人間の動作を支援し、拡張するという画期的な技術だ。この技術は医療、介護、災害復興など多岐にわたる分野で応用され、人々の生活に直接的な変革をもたらしている。
しかし、HALの開発と普及は容易ではなかった。当時、装着型サイボーグというカテゴリ自体が存在せず、規制や認証の枠組みも整っていなかった。山海は「なければ創る」という信念のもと、ISO(国際標準化機構)を通じて国際規格をゼロから構築し、医療機器としての認証を獲得。さらに、日本初の複数議決権株式を活用した上場を実現し、CYBERDYNEをグローバル市場へと押し上げた。
山海の経営哲学は明確だ。「悩んだらやめなさい」「あるべき未来を描き、そこから逆算して今を決める」「人や社会に喜ばれることを追求する」。これらの言葉は、彼の意思決定と行動の根幹を成している。彼は、自身の専門分野にとらわれることなく、あらゆる手段を活用して目標を達成することを信条としている。
CYBERDYNEは現在、医療、介護だけでなく、次世代のスマートシティ構想にも関与している。2023年にはつくば市がスーパーシティ型国家戦略特区に指定され、山海はその中心で、AIやビッグデータを活用した社会変革を進めている。さらに、国際展開も積極的に進めており、ヨーロッパやアジア、アメリカでの事業基盤を拡大。特にドイツとの協力は深く、医療用HALが労災保険の適用対象となるなど、医療と福祉の新たなモデルを構築している。
山海嘉之の挑戦は、科学技術がもたらす可能性を信じ、それを社会の中で実現することにある。その姿勢は「未来を創る」という一言に集約される。彼が描く未来は、科学と人間が調和し、誰もが自由に活躍できる世界だ。その歩みは、私たちが目指すべき次の地平を示している。