逆境でこそ
挑戦の舵を取れ

人は時に、運命の波に呑まれながらも、その波を乗り越える術を見出す。永井孝資という男の人生は、その波に挑むことで形作られてきた。彼のストーリーを語る際、歴史の大海原を旅する必要がある。例えば、かつてフランクリン・ルーズベルトがニューディール政策によって大国アメリカを大恐慌から救い出したように、永井もまた、倒産寸前の危機に直面した家業を復興へと導いた。その軌跡には、人間の可能性と挑戦のエッセンスが詰まっている。


栃木県で1958年に創業された老舗企業、株式会社永井園。2021年、父がステージ4の癌と診断されるという突然の知らせは、永井に社長就任という重責をもたらした。コロナ禍での代替わりは、まさに嵐の中で舵を取るようなものだった。だが彼は、この時代の混乱をただの災難とは捉えなかった。むしろ、それを糧として会社の未来を再定義する機会と見なした。


「いちごのピンクカレー」や「レモン牛乳のオリジナルグッズ」など、ユニークな商品開発で知られる永井園。しかし、この創造性の裏には、並外れた努力と試行錯誤が隠されている。東日本大震災で多くの人が西日本へ避難した際、永井はリスクヘッジのために関西進出を決断した。大阪の道頓堀でその活気に触れ、即座に出店を決めたエピソードは、彼の果断な性格を物語る。

また、永井の経営哲学には、父から受け継いだ「社員ファースト」の考え方が色濃く反映されている。「理不尽な取引先と付き合い続けることを従業員に強いることはしない」と断言するその姿勢は、観光業界に蔓延する長時間労働や劣悪な労働環境への挑戦でもある。10年以上かけて労働環境を改善し、今では従業員から「当時の苦労があったから、今は幸せだ」と感謝の言葉をもらうまでに至った。


2024年3月末には新事業として飲食店【ホルモン酒場「永」】をオープン。個人事業として焼肉店を運営していた経験を生かし、会社として多店舗展開を視野に入れる。永井にとって、この新事業は単なるビジネスの拡大ではなく、自分自身の夢を形にするプロジェクトだ。彼が目指すのは、売上高で業界ナンバー1を目指すだけではなく、働く人々や関わるすべての人々が満足できる企業文化を築くことだ。「厳しい労働環境で得た数字に意味はない。ステークホルダー全員が幸せになることこそが、本当の成功だ」と語る。さらに永井は、「従業員一人ひとりが夢を実現できる場」を会社の未来像として掲げる。「それがたとえこの会社でなくてもいい。独立して事業を始めるといった、夢の実現を後押しすることが喜びだ」と話すその眼差しには、次世代への期待と信念が宿っている。

永井の座右の銘は「有言実行」。彼が放つ言葉には、ただの希望ではなく、行動を伴う力がある。「世の中に対し諦めないでほしい。努力は必ず実る。見ている人は必ずいる。どうすればできるかを考えれば、道は開ける」という言葉の裏には、自身が幾多の試練を乗り越えてきた誇りと実感がある。


ルーズベルトが恐慌の最中に「恐れることそのものを恐れるな」と訴えたように、永井孝資もまた、どんな時代でも可能性を信じ続ける力を持っている。社会が変動し、課題が山積する中でも、彼は挑戦し続けるだろう。その歩みは、永井園という会社の成長だけでなく、人々の心に希望を灯す存在として、輝き続けるに違いない。

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