山梨県南アルプス市。目に見えない微粒子との闘いが繰り広げられる半導体や精密機械の工場。そこで着用される「クリーンスーツ」の特殊洗浄を生業とする企業がある。株式会社プロシアだ。一粒の塵すら許されない厳格なクリーン洗浄から、家庭の洗濯機では太刀打ちできない泥や油にまみれた重作業着のクリーニングまで、同社は現場で働く人々の誇りを洗い上げている。
この特異な企業を牽引する代表取締役、清水めぐみ。彼女の語り口は静かで穏やかだが、その奥には現場の人間への深い敬意と、経営者としての強靭なリアリズムが息づいている。

清水が家業であるクリーニングの世界に入ったのは自然な成り行きだった。しかし、トップの座は予期せぬタイミングで突然彼女に委ねられる。入社から10年も経たないうちに祖父が他界し、急遽会社を背負うことになったのだ。
「すぐに辞めますっていう状況が、ちょっと無理なのかなと思いまして。やる気もなく、後を継いだみたいな形でしたね」
清水は当時の戸惑いを、隠すことなくそう振り返る。重圧から逃げ出したかった。だが、頼りない自分の下でも文句を言わずに働き続けてくれる従業員たちや、長年会社を支えてくれる顧客の存在が、彼女をその場に引き留めた。「ちゃんとやらなきゃいけないんだ」。その切実な自覚が、少しずつ彼女を経営者へと変えていった。

決定的な転機となったのは、地元の商工会が主催する「夢現塾」という、若手経営者や後継者が集う勉強会への参加だった。同世代の経営者たちと本音でぶつかり合う中で、彼女の心に火が点く。
「周りのみんなの言ってくれるアドバイスだったりとかが、突き刺さるというか。すごくやる気を起こさせてくれましたね」と清水は語る。仲間たちの熱を帯びた言葉が、彼女の腹を括らせたのだ。
覚悟を決めた清水が、経営において何よりも優先しているものがある。それは従業員の「生活」だ。
「働いてくれている人たちをすごく大切にしたい。一人一人が働きやすい、自分のプライベートだったり家庭環境だったりを大事にして、仕事って二の次でいいよっていうのが、すごく私の中にあったんです」
仕事は、二の次でいい。怠惰を促しているわけではない。生活の基盤が整い、心が安定して初めて、プロとしての高いクオリティが生み出されるという彼女なりの哲学だ。

プロシアでは、学校行事や子供の発熱による欠勤は当然の権利として受け入れられる。子供が小さい時は家庭を最優先とし、成長して教育費が必要になれば、パートから正社員へと登用する。従業員一人ひとりのライフステージの変遷に寄り添い、生活を守り抜く体制こそが、強固な組織の土台となっている。
半導体市場の拡大に伴い、クリーン洗浄の需要は今後も伸びていく。事業拡大のフェーズにありながらも、清水の視線は常に、現場で汗を流す「個人の人生」へと向けられている。
多様化が叫ばれる現代にあって、清水は未来を生きる人々へ「夢」を持つことの意義を静かに説く。
「自分がなりたいものだったりとか、夢っていうのは、やっぱり持っていてほしい。それに向かってなら、どんな困難にも立ち向かえると思うんです」

結果が全てではない。夢に向かって足掻き、困難に立ち向かう軌跡そのものが、人間を決定的に鍛え上げるのだと彼女は断言する。
「もし万が一、それにならなかったとしても、その過程って自分にとって宝物のように力になるし、自信につながると思うので。夢はずっと持ち続けてもらいたいですね」
不本意な社長就任という現実から逃げず、周囲の言葉を糧にして自身の道を切り拓いてきた清水めぐみ。目標に向かって歩み続けるその「過程」こそが人間を強くするという彼女の言葉は、プロシアという企業の歩みそのものと重なり、確かな熱を持って響くのである。




