いろんな見解はあれど、暮らしを営むうえで、独りほど辛いものはないだろう。「人」という字が互いに支え合う姿を表すと武田鉄矢が壇上で熱弁したように、どんなかたちであれ、私たちは誰もが他人からの支えを必要とする。ことグループホームや就労支援、訪問看護など、地域に根ざした福祉サービスが果たす役割は、その字義の通り、人と人をつなぎ、生きる力を育むものである。
栃木県宇都宮市。日光や鬼怒川の温泉地にほど近く、関東の喧騒を少し外れたこの場所で、地域に根ざした福祉事業を展開している株式会社ウェルフィングという会社がある。主に障がい者向けの福祉事業を展開しており、地域のニーズに応じた多様なサービスを提供している。グループホーム、就労支援、訪問看護、相談支援。それぞれが単なるサービスではなく、地域社会のインフラとなり、人々の生活の質そのものを向上させている。代表取締役の松本文沙は、この会社を21歳という若さで起業し、福祉の新時代を静かに、しかし確実に切り開いてきた。
松本の起業の動機は非常に個人的なものだった。小学生の頃から彼女は吃音に悩まされてきた。頭では理解しているのに言葉が出ない。孤独感や焦燥がつねにつきまとっていたという。しかし彼女は、中学進学を境に自分自身を作り変えることを決意した。内向的な性格を明るく変え、「流暢に話す」努力を続けた。最初は仮面をかぶるような不自然さを感じたものの、次第にその姿が自身の身体に馴染み、いつしかそれが自然な自分となった。彼女は、自らの障害を克服した経験を「生きづらさを抱える人々の役に立ちたい」という事業の原動力へと昇華させたのである。
起業後は、決して順調なものではなかったと語る松本。設立直後、サービス管理責任者として採用した人物が忽然と去ったこともある。信頼していた人材の突然の離脱は松本自身に大きな衝撃を与えたが、それについて、しかし彼女はこう語った。「事業を進めるうえではこういった困難もあるよね、と思うようにしたんです」。つまり彼女は恨みや喪失感を乗り越え、その出来事を受け入れたのである。そうして、困難を文字通り糧として取り入れることで強くなっていった松本は、グループホームをわずか数年で6室から70室にまで拡大させるなど、強靭な意志でウェルフィングの成長を成し遂げた。
そんな松本の強みは「地域密着」の徹底にある。宇都宮という土地に本社を置くことで、地域の声を直接聞き取り、福祉課題にリアルタイムで応える体制を作ってきた。そんな背景もあり、地方都市でありながら、ウェルフィングは地域トップクラスの施設規模を誇っている。
彼女の視線は、日本の福祉業界全体の未来にも向けられている。松本は今、外国人雇用の促進や、福祉業界特化型の外国人雇用教育機関の設立を目指している。「障がいを持つ人々が安心して暮らせる社会を作ることは、私たちが今すぐできる大切なことです。自分が経験した困難は、いつか誰かを救う強さになります」。
地域福祉の真価とは、誰一人置き去りにしない社会を静かに、しかし確実に形作っていくところにあると思う。だからこそ、人が支え合うという営みを忘れない社会でありたい。小さなサービスの積み重ねこそが、私たちの地域の強さになるはずだから。