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  • 役職

    代表取締役社長

  • 氏名

    房 広治

  • 会社名

    GVE株式会社

金融包摂を目指して

彼が語る未来は、どこか詩的な響きを持っている。GVE株式会社の代表取締役社長、房広治という人物は、ただの経営者ではない。彼は金融のデジタル革命という壮大なストーリーの語り部であり、その筆致は骨太でありながら、どこか人間味に溢れている。

57歳の春、房氏の人生は一変した。スキー事故で脊椎を損傷し、医師からは「首から下が動かない」という厳しい現実を告げられた。しかし彼は、それを単なる絶望に終わらせなかった。倍のリハビリをこなし、奇跡的な回復を遂げた彼は、人生観そのものが変わったと言う。かつては資本主義の権化のような存在だった彼が、「利益よりも人の役に立つことを」という哲学を抱き、新たな挑戦に踏み出す契機となったのだ。

房氏のビジョンは大胆だ。彼が目指すのは、法定通貨の完全なデジタル化だ。これによって、世界中の現金決済を劇的に効率化し、金融のすべてを自動化するプラットフォームを構築することを目指している。現金決済のコストは、世界で毎年約450兆円にも及ぶと言われている。その膨大な無駄を取り除き、さらに銀行口座を持たない20億人に金融サービスを提供するという野心的な構想を掲げる。

GVEの共同創業者であり、技術者の天才と呼ばれる日下部進との出会いもまた運命的だった。日下部氏は、非接触ICカード「フェリカ」を開発し、NFC技術の国際規格化を進めた人物。二人の出会いはまるで科学と芸術の融合のようであり、その結果生まれたのがGVEの革新的なデジタル決済プラットフォームだ。

そのビジョンを具体化する過程で、房氏は「未来から逆算する」という哲学を貫いている。例えば、30年後の社会で現金がなくなり、すべてがデジタル化された世界を想像する。そこから現在に戻り、その実現のために必要なシナリオを描く。その思考法は、彼自身が影響を受けた歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの「お金は人間の最高のストーリー」という言葉と共鳴しているようだ。

また、GVEが目指すのは単なる技術革新ではなく、「金融包摂」という社会的な意義をも含んでいる。南アジアや南ヨーロッパの国々との協力を通じて、現金がいらない社会を構築しようとしている。彼らのプラットフォームは、単に利益を追求するだけではなく、「人々の暮らしを良くする」という使命を背負っている。

彼の言葉には、ジョブズのような鋭さがある。彼は、世界中の首相や大統領に自らのアイデアを売り込み、瞬時に相手の興味を引きつける能力を持っている。彼の提案は、単なるテクノロジーの話を超えて、「どんな世界を創るべきか」という問いを投げかける。

GVEの運営スタイルもまたユニークだ。全員が固定給ゼロで働き、成功報酬型のシステムを採用している。このスタイルが示すのは、「お金ではなく信念で動く」組織の在り方だ。未来を見据えた房氏の経営哲学は、シンプルでありながら力強い。

「少人数で戦える、敵を山と海に囲まれたところに追いやればいい。」この言葉に象徴されるように、彼は無駄を省き、本質を追求する。そのアプローチは、GVEという会社のスタイルそのものだ。

房広治という男が創る未来は、単なる技術革新の枠を超え、人々の生活そのものを変える力を持っている。そしてその未来は、彼が描くシナリオの中ですでに形になり始めている。

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