オキサイド。その名は、未来を変える結晶の力とともに知られている。創業者であり、代表取締役社長の古川保典は、福島県の小さな町で生まれ、病弱な幼少期を送った少年だった。しかし、彼の人生は、困難とリスクの中で鍛えられ、鋭い決断力と情熱を育んできた。
古川が語る「リスクを冒さないことがいちばんのリスク」という哲学は、オキサイドの成功を象徴している。筑波大学大学院を修了後、スタンフォード大学で結晶の欠陥を減らす研究に没頭し、日立金属や国立研究所でのキャリアを積んだ彼は、技術の先にある「実用化」というゴールを常に見据えていた。その姿勢は、研究者としての枠を超え、経営者としての視点を早くから育てていた。
2000年、彼は40歳でオキサイドを創業する。プレハブ小屋でのスタート、数人の仲間とともに挑む日々。研究成果を世の中に役立てるという使命感が、彼を突き動かした。だが、その道は決して平坦ではなかった。大手企業が持つ資金や技術に対抗し、小さなベンチャー企業が生き残るには、彼らにしかできない仕事を見つける必要があった。
彼は、深紫外レーザの開発を通じて、オキサイドを世界に通じる企業へと成長させる。ソニーから事業を譲り受ける際、社員全員の反対を押し切って億単位のリスクを背負う決断をした。その背景には、スマートフォンの普及とともに半導体検査の需要が急増する未来を見据える鋭い直感があった。結果として、この賭けは成功を収め、オキサイドの売上の半分を占める事業となった。
古川は語る。「自分たちにしかできないことをやる、それがビジネスの基本だ」と。彼はリスクを恐れない。それどころか、リスクをチャンスに変える術を知っている。NTTが株主となり、事業規模が拡大する中でも、彼は「自分たちがいないと困ること」を追求し続けた。研究とビジネス、その両方に精通する彼の経営スタイルは、日本のスタートアップ企業の模範と言える。
「成功する光景をまず思い浮かべる」。これは彼のもう一つの哲学だ。イスラエル企業を買収し、新たな事業展開を描くときも、まず成功のビジョンを明確にし、それを実現するための具体的なステップを踏んでいく。目の前の課題に埋没せず、常に未来を見据える姿勢が、オキサイドを独自の地位へと押し上げた。
古川の経営哲学は、個々の社員にも浸透している。「自分の価値は自分で上げていく」。社員たちは、自らのスキルを磨き、市場価値を高めることを奨励されている。それは同時に、会社全体の成長にもつながる。対等な関係を築きながら、共に未来を切り拓くチームの姿が、ここにある。
オキサイドは2021年、東京証券取引所マザーズ市場に上場し、さらに飛躍を遂げた。現在、売上高の約半分がレーザ関連事業から生まれている。この成功の裏には、古川の挑戦と決断、そして社員全員の努力がある。
彼の人生には、苦難と挑戦が詰まっている。しかし、それが彼を強くし、オキサイドという企業の成長を支える基盤となった。「体が弱かった子ども時代が、いつも精一杯生きるという基本姿勢をつくった」と語る彼。その姿勢が、彼をここまで導いてきた。
リスクを恐れない哲学、未来を見据える直感、そして社員と共に成長する信念。これが、古川保典とオキサイドを形作る要素だ。そしてその先には、さらに広がる未来が待っている。