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  • 役職

    代表取締役社長

  • 氏名

    阿久澤 毅

  • 会社名

    群馬クレインサンダーズ

熱き魂で
日本一を目指せ

阿久澤毅という人物の存在感は、嵐のように強烈でありながら、どこか穏やかな温かさを帯びている。彼が生まれ育った群馬の地がそうさせるのか、あるいは教育者として長く積み重ねてきた経験の賜物なのか。いずれにせよ、彼の歩みを振り返ると、常に新たなチャレンジに挑み続け、周囲を巻き込んで、強いエネルギーで未来を切り拓いてきた男の姿が浮かび上がる。とりわけ、「群馬クレインサンダーズ」の代表取締役社長に就任した2020年以降の足取りは、まるで荒野を一直線に駆け抜ける疾走感に満ち溢れている。

そもそも、阿久澤のスポーツに対する情熱は、高校時代からすでに際立っていた。群馬県立桐生高等学校の野球部では甲子園に出場し、伝説の王貞治以来となる2試合連続ホームランを放ったという事実だけで、彼の野球センスと度胸が並外れていたことがわかる。だが、そこで燃え尽きずに群馬大学へと進学。教職の道を選び、小学校教諭として2年、高校教諭として35年もの歳月を教育現場に注いだ。

教師生活の大半は高校野球部の監督として、若い才能を育てながら生徒たちと一緒に汗を流してきた。グラウンドに降り注ぐ強い日差しと、試合の勝敗に翻弄される喜怒哀楽の日々。その一方で、家庭や地域社会の問題を抱える生徒もいれば、勉強との両立に四苦八苦する生徒もいた。そうした生徒たち一人ひとりに向き合い、人生の迷いに寄り添うように説き、打席に立つときの集中力や試合中の判断力を通して、生き方そのものを学ばせる。結果を求める指導とは違い、「人としてどうあるべきか」を追い求めるような教育スタンスだった。この姿勢こそが、後にバスケットボールというまったく未知の世界に飛び込んだ際の大きな原動力となっている。

2020年7月、定年を目前に控えた彼のもとに、ひとつのオファーが舞い込んだ。「群馬クレインサンダーズ」の代表取締役社長への就任依頼である。プロバスケットボールのBリーグというアリーナは、先の甲子園での栄光とも、高校野球の監督としての経験ともまるで性質が異なっている。バスケットボールを専門的にやっていたわけではないし、経営者としてのノウハウも未知数。それでも阿久澤は挑戦を選んだ。スポーツを通じて郷土である群馬を、そして日本を活性化したいという想いが、彼の身体の奥底で大きく脈打っていたのだ。教師生活で培った「一歩踏み出す勇気」が、バスケという新たなコートへと彼を導いた。

就任早々、世界中を覆った新型コロナウイルスの影響が容赦なく彼の前に立ちふさがる。試合の日程は不安定になり、観客数の制限や試合そのものの中止が相次ぐ。特に苦しかったのは、試合開催当日に「中止」の判断が下った瞬間だ。長い準備期間を経て、当日を心待ちにしていたファンやスポンサー、関係者たちの失望は計り知れない。まさに晴天の霹靂。だが阿久澤は、その都度自分の足で頭を下げてまわり、謝罪し、同時に「何かできることはないか」と素早く頭を切り替えた。「試合が中止なら、せめてマルシェだけは開けないか」という発想は、困難に直面しても希望を見出す姿勢そのものであり、まるで頑強なバッターボックスで粘り続けるバッターのようだった。実際、コロナ禍で得た教訓は多い。選手とファンが直接触れ合う機会のほとんどが消え、アリーナ全体が密閉空間だと敬遠される中で、どうやって「一体感」を生み出すのか。これこそ、ある意味では阿久澤がずっと向き合ってきた「チームをどうまとめるか」と重なる課題だった。選手やスタッフと徹底的にコミュニケーションを取り、SNSなどオンラインツールも駆使しながら、可能な限り密度の濃い情報発信を行う。ファンにとっては「今、クラブが何を考え、何をやっているのか」が見えるだけで安心感が違うのだ。その粘り強い姿勢が、コロナ禍を乗り越えた現在、確固たるチームとファンとの結束を生み出し、大きな資産として実を結んでいる。

そして、群馬クレインサンダーズが歩んできた大きな道のりのひとつに、本拠地の移転がある。ホームタウンを前橋市から太田市へと動かすことは、安易な決断ではなかった。バスケットボール専用の新アリーナをどう建設するのか、その周辺の駐車場やアクセス路の問題はどう解決するのか。市民や行政との連携はスムーズに進むのか。数え切れないほどのハードルがそこには立ちはだかっていた。だが、阿久澤は焦ることなく、むしろ一つひとつを実直にクリアしていく。まるで硬球を打ち返すように、問題を一球ずつ丁寧に捉えては次のステップへ。太田市との度重なる話し合いを重ね、市民の意向や現場で働く人々の声をくまなく拾って、地に足をつけた解決策を模索する。そうして完成したのが、最新設備を誇る「オープンハウスアリーナ太田」だ。この新アリーナが群馬クレインサンダーズにもたらしたものは計り知れない。14面の巨大ビジョンが天井から吊り下げられた光景は、バスケットボールの本場であるNBAを思わせるほど迫力があり、初めて足を踏み入れる観客の多くが一様に驚嘆の声を上げるという。その感動が口コミを通じて広がり、やがてチームの人気は急上昇。コート上で繰り広げられる選手たちの躍動感と観客席での熱狂が相まって、アリーナ全体がひとつの巨大なうねりとなる。バスケ経験者だけでなく、普段は他のスポーツを好んで観戦していた層までもが足を運ぶようになった。それはまさに、阿久澤が「スポーツを文化にしたい」と願ってやまなかった理想へ、一歩近づいた証でもある。

2023−24シーズンには30試合連続でチケット完売という快挙を成し遂げ、売上は20億円を超えた。これは単純に数字の成功だけを意味するのではない。プロスポーツが地域社会にもたらす多面的な効用を、まざまざと示した象徴的な成果と言える。経済効果はもちろんのこと、多様なマルシェや音楽イベントをアリーナと融合させることで、バスケに馴染みのない人々も気軽に訪れるようになり、地域の人々の交流や活性化にも大きく寄与している。こうした試合以外のエンターテインメント要素こそが、阿久澤の真骨頂だ。教師時代に文化祭や学園祭を盛り上げてきた手腕が、見事にプロバスケットの場で開花している。

さらに、Bリーグの新たな挑戦として2026年10月から開幕する「B.LEAGUE PREMIER」への参入も決定。ハード面とソフト面の両軸をしっかりと整備し、常に満席の状態を作り出すことを目標としている。その自信の背景には、何よりも「人を巻き込む力」がある。教育現場で長い年月をかけて育んできたコミュニケーション能力と、野球部監督として勝利と敗北のはざまで選手と向き合った経験が、経営者として自然に活きているのだ。いかにすれば人は動くのか。どうすればチームや組織をまとめ上げることができるのか。それを彼は理論ではなく、身体で覚えている。だからこそ、未知の領域であっても前進し続けられる。

阿久澤は、かつて自分が甲子園という舞台で感じた高揚感と挫折感、その両方を大切に胸に刻んでいる。それと同じような感覚を、今度はバスケットボールという新たな舞台でより多くの人々に味わわせたいのだ。だからこそ、群馬クレインサンダーズを「日本一のチーム」に育て上げることを公言する。その言葉に虚勢や誇大広告のような軽さは微塵も感じられない。彼が話す「日本一」は、単に勝ち負けの頂点を示すのではなく、チームと地域、そしてファンが一体となって高め合い、文化と呼べるまでに根付かせることを指している。自分の生まれ育った郷土を、真に誇れる場所に変えていく。そこには、「スポーツは人の心をつなぐ力がある」という信念がしっかりと根を下ろしている。そうした使命感は、群馬県全域へと広がることを強く望んでいる。単なる前橋や太田市だけの話ではなく、伊勢崎や高崎、さらには県境を越えて多くの人々を巻き込んでいきたいのだ。阿久澤は「やればできる」というメッセージを背中で体現してみせる。たとえ失敗や挫折があろうとも、それは新しい光景を見に行くための通過点でしかない。挑戦を続けること自体が、人の可能性を開花させる。これは教師として生徒に伝えてきたことであり、スポーツクラブの代表としても変わらない普遍的な真理である。

同じく群馬県出身の鈴木惣太郎がプロ野球を産声とともに世に広めていった当時、世間にはそれを「ただの娯楽」にすぎないと見る向きもあった。だが、それを本気で推し進め、社会に定着させる情熱があったからこそ、今の日本におけるプロ野球の隆盛がある。つまり新しいスポーツ文化を創り、根付かせるという行為は、常にチャレンジと困難を伴うが、同時に莫大な可能性を秘めている。まさに阿久澤が今やろうとしているのは、その鈴木惣太郎が歩んだ道のバスケットボール版とも言える挑戦だ。群馬クレインサンダーズというまだ若いクラブを、日本のプロスポーツ界の新しいシンボルにまで成長させ、地域の誇りとして根付かせる。しかも、ただ勝敗を競うだけではなく、そこに教育的要素や地域コミュニティの活性化を絡めて、誰もが主役になれる場所へと転換させる。そんな「スポーツ革命」の萌芽を、阿久澤は確かな手応えをもって実行に移しつつあるのだ。

時代は常に変わり続け、社会の形も価値観も流動していく。しかし、スポーツが人々の心を震わせる本質的な力は、創成期からの歴史が示す通り、決して揺らぐことはない。むしろ、そうした変化の激しい時代だからこそ、人々は熱狂や連帯感、そして挑戦することの大切さをスポーツに求めるのではないだろうか。

この男はまだまだ止まらない。甲子園でのホームランも、高校野球部の監督時代も、そして今のバスケット経営者としての日々も、すべては点と点を結ぶ一本の線の上にある。それを力強く繋いでいるのが、誰よりも強い「信念」と「行動力」だ。自分が生まれ育った故郷・群馬を、もっと面白く、もっと豊かにしたい。その姿に触発されて、多くの人々が次々に新しい挑戦を始めていくに違いない。

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