人と人の心を繋ぐ、強靭な架け橋

高速道路を疾走する時、我々は橋の存在を意識しない。ましてや、その橋の裏側に張り巡らされた排水装置や点検通路のことなど、想像すらしないだろう。

橋梁技建株式会社。代表取締役の杉本博樹が率いるこの会社は、橋の本体ではなく、そうした安全設備を設計から製造、取り付けまで一貫して手掛けている 。かつては営業、設計、施工とバラバラだった業界の構造を一つにまとめ上げ、圧倒的な差別化を図ってきた 。

だが、どれほど社会のインフラを支えようとも、彼らの仕事はどこまでいっても「黒子」である 。杉本は「高速道路を利用されている人たちが『あなたのおかげで安全に走れているわ』なんて事は、これっぽっちもみんな思ってない」と語る 。「ありがとう」という言葉が直接届かない環境は、確実に人間の心を渇かせていく 。

今の杉本からは想像し難いことだが、20代後半までの彼は「イキがって偉そうにしている」経営者だった 。社員は次々と辞めていった 。そんな決定的な断絶の中で、彼はある経営者研修を受け、激しい衝撃を受ける 。 「社員は奴隷でもなければロボットでもなんでもないんやと」 。 一人の人間として相手を尊重し、心を繋がなければ、会社という組織は機能しない 。その痛切な気づきが、彼と会社を根本から変えた。

現在の橋梁技建は、社長のトップダウンではなく、徹底したボトムアップの組織へと変貌を遂げている 。カリスマに依存する組織は、その人間がいなくなった瞬間に思考を停止してしまうからだ 。杉本は「可能な限り僕が右や左だという意思決定をせずに、社員さんが自分たちで考えてこうするべきだろう、ああするべきだろうという風にして、やってもらおうと思っている」と語る 。今では業績の数字にすら口を出さず、現在の事業の「刈り取り」は完全に社員に任せているという 。

代わって杉本が今、強烈な情熱を注いでいるのは、海を越えたベトナムでの新会社設立だ 。安全な飲料水にアクセスできず、命を落とす子供たちが多い地域に、簡易的な浄水装置を普及させるプロジェクトを進めている 。 それは、黒子の仕事で渇いた心を満たすための、必然的な挑戦だった 。「自分たちがやったことが、ダイレクトにその人の喜びに繋がるような、そういった仕事っていうものもやりたいなと思っていて」と杉本は静かに、しかし熱を込めて語る 。社会に貢献している実感が持てるならば、業種は何でもいい 。それが彼の実感だ。

仕事とは何か。誰もが好きなことを仕事にできるわけではない 。生きるために働くのが、大半のリアルだ 。しかし、杉本はそこで思考を止めない。 「覚悟を決めると、その仕事って楽しくなると思います。つまりこれは解釈力なんですけどね」と杉本は微笑む 。 目の前の仕事の価値と意義をどう解釈するかで、退屈な作業は喜びに変わる 。社員は奴隷でもロボットでもない。自ら解釈し、考え、心を満たすことのできる一個の人間なのだ。杉本博樹が作る組織は、橋という物理的なインフラだけでなく、人と人との心を繋ぐ、強靭な架け橋でもある。

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