フランスの哲学者サルトルは「人間は自由という刑に処されている」と述べた。何を選択し、どのように生きるのか。自由には、常に不安や葛藤がつきまとう。それでもなお、人は自由を求めてしまう。つまるところ自由とは、困難とともにあるからこそ価値があるものなのかもしれない。
芳子ビューエルは群馬県高崎市出身。地元の県立高校を卒業すると、早々にカナダへと旅立った。彼女が選んだ道は、当時まだ女性が少なかった海外留学。ブリティッシュ・コロンビア州のダグラス・カレッジを卒業し、そのまま現地企業で営業職として活躍する。彼女が入社したBenndorf Vester Ltd.(現キンコース)は、当時女性を営業として採用したことがなかった。彼女は、この壁を最初に破った人物となった。
日本への帰国後も、芳子は境界を越え続けた。1989年、株式会社アペックスを設立し、輸入商社として着実に成長し続けた。同時にJETRO(日本貿易振興機構)の依頼で世界36都市を回った芳子。その中で彼女が深く感銘を受けたのは北欧のライフスタイルだった。特にデンマークの人々が幸福度ランキングで常に上位を占めるその理由を探る中で、彼女が発見したのは「自由」という価値観の絶対性だったと語る。
この自由というコンセプトを自らの会社にも反映させるべく、2006年、芳子は株式会社アルトスターを新たに創業。従来の組織的な縛りを排し、社員一人ひとりが自由に自己実現できる会社を目指した。社員が人生を豊かにする手段として仕事を捉えることが重要だと考えているからこそ、1時間単位の有給休暇や、リモートワークを当たり前に導入することで、時間や場所の制約を可能な限り取り払った。現在では東京や千葉に住む社員が、週に数回群馬県の事務所を訪れるだけで、自由かつ柔軟に働ける環境を作り出している。
このまさに自由な環境で、アルトスターはドイツの革新的な繊維技術、セル・ソルーション(Cell Solution®)を日本市場に持ち込み、温度調整機能を持つ綿素材を寝具に、ビタミンE配合の繊維を「衣料化粧品」として展開。これは業界初の試みであり、彼女の率いるアルトスター独自の強みとなった。こうした先進性もあり、業績は着実に伸び続けている。
彼女にとって高崎という地は、自然が豊かで、同時に都市機能へのアクセスも良好、実に理想的な場所だ。海外経験の長い社員にとっても、この場所は心地よい。都会と自然が絶妙に融合した環境は、芳子自身が追求するボーダレスな生き方とも調和している。
一方で、彼女の中に深く根付いているのは北欧で得た「自然な自由」という精神である。彼女の自由とは、理想論でも哲学でもない。日常生活に自然に溶け込み、身体的にも精神的にも違和感なく機能する現実的な自由なのだ。
今日もまた、芳子ビューエルは自由と向き合い、その本質を問い続け、そして実現に向かって動き続ける。