すべては品質から

一着のスーツを選ぶという行為は、意外と難しい。毎日の仕事で着る人もいれば、入社式や成人式、冠婚葬祭といった人生の節目にだけ袖を通す人もいる。だが、頻度や用途がどうであれ、スーツを纏うとき、それぞれの人が背筋を伸ばし、心にどこか特別な気持ちを抱く。

そんなスーツを選ぶ時、誰もが一度は目にしたことがあるだろうブランドが「コナカ」だ。1952年に神戸の小さな紳士服店として始まった株式会社コナカは、紳士服を中心にスーツ販売の大手企業として着実な成長を遂げてきた。創業当初は手探りでのスタートだったが、時代とともに人々のライフスタイルを見つめ、ビジネスや人生のさまざまな場面に寄り添うスーツを提供してきた。

コナカのスーツは、ある種の身近さが特徴と言えるだろう。高級路線やブランド志向が強い紳士服業界において、どこか庶民的で親しみやすい存在感を放つ。決して手を抜いているわけではない。むしろ、品質と機能性にこだわり抜き、「実用性」の中に品格を宿らせているのが、コナカの魅力ではないか。

そのこだわりは、生地選びや仕立ての技術だけにとどまらない。近年は「洗えるスーツ」や「動きやすいスーツ」といった、着る人の声を丁寧に拾い上げた商品開発を進め、時代が求めるスーツ像を常に模索し続けている。スーツ離れと言われる時代だからこそ、「働き方が多様化した今の時代に合った一着」を追求する姿勢には、長年培った経験と、挑戦を恐れない企業精神がうかがえる。

スーツ販売の競争環境は年々厳しくなっている。若い世代のファッションのカジュアル化、リモートワークの広がり、職場のドレスコードの緩和…こうした流れはスーツ業界全体に逆風をもたらした。実際、紳士服大手各社もその波に直面し、業態転換や戦略の見直しを迫られている。そんな中、コナカも単なる衣料品店から脱却し、新たな価値を提示する必要に迫られているのだ。

このような状況下で、コナカは単に流行を追いかけるのではなく、あえて基本に立ち返り「スーツが本来持つ意味」を掘り下げようとしているように見える。スーツは決して窮屈な制服ではない。それを着ることで気持ちが整い、自信が湧き、自分の価値や役割を再認識できる特別な服装なのだということを、改めて社会に問いかけているようだ。

そして何よりも、コナカが大切にしているのは、店舗に足を運ぶ顧客との丁寧なコミュニケーションだろう。実際に店頭を訪れると、従業員が親身になって一人ひとりの要望に応え、着る人にとってベストな一着を共に選んでくれる。そのやり取りの中には、AIやオンライン販売にはない温かみと誠実さが感じられる。こうした対話こそが、コナカが長年支持され続けている理由の一つではないかと思う。

かつて、経済成長期には「背広」と呼ばれ、会社員が仕事に励む姿の象徴だった、スーツ。そこには日本人の働き方や人生観が反映されてきた歴史がある。いま再び、働く人の価値観やライフスタイルが大きく変化するなかで、コナカのような企業は単に「服」を提供するだけでなく、「人の生き方」にまで関わる役割を担い始めているように思える。

 

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